週刊文春 11月22日号の記事から抜粋・参考
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輸入牛肉で発がんリスクが5倍になる
BSE問題で世間を騒がせたアメリカ産牛肉。だが、禁輸は解除され、いまや放射能を気にして、国産よりアメリカ産を選ぶ人までいる。ところが、アメリカン牛肉は、強い発がん性をもつ「残留ホルモン」が桁違いに高かった。「牛の肥育には、エストロゲン(女性ホルモン)が使われています。その残留濃度を計測してみたところ、和牛と比べて、アメリカ産牛肉は赤身でなんと600倍、脂肪で140倍も高かったのです」
こんな衝撃的な事実を明かすのは、北海道大学遺伝子病制御研究所客員研究員の半田康医師である。この数値は、半田医師らが「牛肉中のエストロゲン濃度とホルモン依存癌発生増加の関連」という論文を発表した際に計測されたものだ。エストロゲンには20種類以上あるが、その中でもっとも生理活性の強いエストラジオール(E2)とエストロン(E1)である。なかでもE2は、E1の10倍の活性を示し、がんなどの発症に関与していると考えられている。そのような危険な物質が日本牛より、赤身肉ではE2が630倍、E1が10倍、脂肪ではE2が140倍、E1が11倍も含まれているのだ。残留ホルモン量の単位はピコグラム、つまり1兆分の1なので、そんな微量かと思われるだろうが、エストロゲンは体内でピコグラム単位で作用するため、決して低い数値ではない。エストロゲンは人体にも存在するものであり、女性の成長には欠かせないホルモンである。だが問題は、高濃度のエストロゲンを外部から摂取することが、人体にとってどれほど有害か、ということなのである。アメリカやカナダでは、牛を短期間で肥育させる成長促進剤として、6種類のホルモンが1960年代から使われてきた。だがEUは、80年代、人の健康に影響があるとして使用禁止にし、ホルモン剤が投与されたアメリカ産牛肉を輸入禁止にした。これに対してアメリカは、「残留ホルモンは著しく低く、人体に影響はない」と反論。翌年、アメリカ産牛肉の輸入大国である日本も厚生労働省の研究班が、国内産に比べ、エストロゲンは3倍程度で、「人体の健康リスクを増加させる要因にはならない」とした。ここで留意すべきは、日本政府が残留エストロゲンは国産の2~3倍と判断した点だ。それが実際には600倍も残留していたとなれば、アメリカのいう「安全」は根底から崩れる。では、なぜ厚労省調査と半田医師の計測でこれほど大きな差が出たのか。
その理由は測定法の差にある。厚労省が用いたのは、RIAという放射性同位元素を用いた計測法である。しかし半田医師が用いたのは、感度および制度がRIAよりも20~100倍以上あるLC-MS/MSという定量分析装置である。「RIA法では組織中の不純物が邪魔して正確に測定できなかったためで、精度の高い方法で測ったら正確な数値が出たということです」と半田医師はいう。日本では、アメリカで使用されているホルモン剤の使用は禁止されている。だが、輸入牛肉にホルモン剤が残留しているのは認めるという、二枚舌の政策をとっていることになる。では、この残留ホルモンが、私たちの生活にそう影響するのだろうか。「日本人でも、アメリカに移住すると卵巣がんとか乳がんのような、女性ホルモン起因性のがんが増えるんです。これは昔から謎とされてきました。しかし、考えられるとしたら食事くらいしかないんです」半田医師の共同研究者で、北海道対がん協会細胞健診センター所長の藤田博正医師は指摘する。実際、乳がんの発生率は日本人を1とすれば、アメリカ在住白人は2.5倍にもなる。同じ日本人でも、ハワイに移住した日本人は、白人の発生率に近づくというデータがある。これは明らかに食事が関係していることをうかがわせる。なかでも特に大きいのは、牛肉消費量の差だろう。関西医科大学病理学口座の圦貴司講師は、タイを例にとってこう言った。「タイの乳がん発生率は日本の2/3、アメリカの1/4です。タイでは牛肉をあまり消費せず、タンパク源として魚を食べているからだと思います。」06年に、9万人の女性を対象に調査し、牛肉に代表される赤肉をたくさん食べると乳がんのリスクを大きく増加させる、という論文が発表された。その論文の中で、発がんリスクを増加させる原因は、牛に与えられるホルモン剤の残留ではないかと指摘されている。半田医師は、
「マウスにエストロゲンを投与したら乳がんが発生したと報告されたのは、1948年です。エストロゲンはホルモン依存性がんの危険因子だという事実は、もはや教科書レベルの話です」という。日本では60年代と比べて、牛肉消費量が5倍に達している。そして実は、ホルモン依存性がんも5倍に増加しているのだ。両者の増加トレンドは見事に一致している。また、乳がんや卵巣がんといったホルモン依存性がんの発生率が、20~30年遅れでアメリカを追いながら、45~50歳をピークに右下がりになっている。同じ女性なのに、どうして日本とアメリカでピーク年齢が異なるのか。前出の藤田医師は、「40~50歳代の日本人女性に、何らかの決定的な転換点があったことは間違いない。原因としていろいろ考えたのですが、牛肉を除いて見当たらないのです。日本は70年頃から牛肉の輸入が増加しています。マクドナルドがその象徴ですが、これら輸入牛は主に家庭用のハンバーグや焼肉に利用されてきました。
91年の自由化でさらに輸入は加速しましたが、この増加はホルモン依存性がんの増加とほぼ一致します。つまり、この世代は幼少期から牛肉を長期間食べ続けたため、がん年齢なってがんを発症したという推測が成り立ちます。大人になってから牛肉を食べるようになった年代の人たちは、アメリカ型のカーブに乗っていないんです。」高濃度の女性ホルモンは、男性にとっても危険である。エストロゲンは前立腺がんや精巣がんの発がんに関連することが、研究で明らかになってきたからだ。最近、南カリフォルニア大の研究者らが、フライパンで焼いた肉を毎週1.5枚以上食べ続けると前立腺がんが30%増加すると発表。またイリノイ大学のエプスタイン名誉教授も、牛肉の残留ホルモンによって、1975年以降、アメリカ人の前立腺がんが60%、精巣がんが59%増加したと述べている。アメリカでは前立腺がんによる死者は肺がんに次ぐ。日本も20年には95年の6倍になり、やはり肺がんについで2位になると言われている。前立腺がんもホルモン依存性がんであり、同じようにアメリカの後を追っているのだ。
あなたはまだアメリカ産牛肉、ハンバーガーを食べますか?